削いだスタイルに再現性はあるか?
私が仕事をする上で最も重視していること、
それは 再現性のあるスタイルづくり です。
サロン内での仕上がりはもちろんですが、
お客様がお家に帰られてからのほうが
「より重要」だと考えております。
日常を心地よく生活できるものであることが理想であり、
長い期間の再現性を楽しんで頂けてこそ、
本当の意味での「スタイル」なのだと思っています。
美容室では自分の思い通りのスタイルになっていても、
いざ「次の朝」になったら思いどおりに決まらない!
なんてこと、ありがちですよね。
そう、自宅での「再現性」がなければ、
いくら魅力的なフォルムを生み出したとしても、
その魅力は半減どころか、
限りなくゼロに近くなってしまうのではないでしょうか?
たったの一日(場合によっては半日)
ステキになるためだけの代金だとしたら、
その美容代は高すぎます。
美容室って、
「撮影前のモデル」さんのための物ではないはずです。
「再現性」を重要視していないサロンは無いのでは?と思うくらい、
今や、どの美容室も再現性を提唱していますが、
みなさま結果はいかがだったでしょうか?
再現性は本当でしたか?
毎朝、楽にスタイリング出来ていますか?
◆さて、本当の意味での再現性とはなんなのでしょう?
再現性 = 美容室でやってもらったヘアスタイルが、
自分でも自宅で簡単に再現できるということです。
再現性=扱いやすさとも言えます。
ストレスを感じないスタイルこそ再現性のあるスタイルです。
↑ は、ほとんどの方が「美容室に求めているもの」ですよね。
「洗いっぱなしで、何にもせずに形になるようにしてください~」
って言うお客様、結構多いです。
毎朝きちんとブローしたり
セットしないとカタチにならないスタイルには、
あまり需要はありません。
さあ、そんな再現性のある髪型ってどんなでしょう?
そんなラクチンなスタイルってあるんでしょうか?
・・・・実はあります!それは・・・
「坊主」か「おかっぱ」です。(笑)
ふざけるなって?
本当にそうなのですから、しかたが無いです。
再現性だけを追及するとそうなってしまいます。
最近流行のほとんどのデザインは、
「レイヤー」と削ぎ(そぎ)が施されています。
ご存知だと思いますが、
後ろから見るとタコ足、イカ足のような髪型が代表的ですね。
いわゆる一般的に「ウルフレイヤ」ーとか言われているやつです。
特に日本では流行すると、
猫も杓子も同じスタイルをする傾向があるようです。
軽やかに見えるし、
誰がやってもそれなりに見えるスタイルですから、
万人ウケして流行るのは当然のことかもしれません。
最近は、再び「重い」スタイルが流行る兆しみたいですが、
「薄くしたい方」のほうがまだまだ多いのです。
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レイヤーは、
髪の毛が薄くなって動かせる分、
軽い感じや空気感、束感を演出できるのですが、
スタイリングの 失敗率が高い のも このスタイルの特徴。
「昨日はうまく流れたのにな~」とか、
「今日は右になびいて直らない!」など、
スタイリングする度に
毎回違ってしまうというリスクが付きまといます。
・・・そりゃそうです。
動きを出すために薄くしたのですから、
動きが出て当然なのです。
この、動きを出すための「薄くする方法」が、
再現性があるかないかの重要なキーポイントです。
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今や、技術が未熟な美容師でも、
軽くしたい!薄くしたい! 願望の
お客様のために、削ぎます。梳きます。減らします。
「基本」がわかってなくても容赦はありません。
結果、それなりの「今風」なスタイルに仕上がりますが・・・・
同時にペラペラ・スカスカ・パサパサの、
まとまらない髪型が出来上がります。
こういったレイヤーや削ぎをメインにしたスタイルって、
カットの基本がわかっている人の
「緻密な計算」によって減らしてこそ、
「再現性」があるスタイルに仕上がるのです。
基本のわかってない人が作る、
やたらめったら「削いだだけ」のスタイルとは
全くの別物、「似て非なるもの」なのです。
この削ぎの乱用による
「形の崩れ、髪の傷み、再現性の低下」は
かなり深刻な問題です。
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このように、
あまりにも削がれすぎたため、
フォルムが崩れすぎていて「ボリューム不足」で
スタイルチェンジが難しくなっている方には
当店でもよく遭遇します。
そんな風になってしまったら、
可哀想ですが私も「お手上げ」です。
あるべき場所に髪がなければスタイルにはなりませんから・・・・
つまりレイヤースタイルは、
作り手である美容師にとっても、
毎日スタイリングするお客さまにとっても、
本当は上級テクニックを必要としている、
リスクの高い髪型 なのです。
今思えば、90年代はじめ頃までは、
フロントからサイド部分くらいにしか「レイヤー」は施されてなく、
「削ぎ」もあまり多くはありませんでした。
「流行」とは酷なもので、
今見るとかなり野暮ったい印象ですが、
再現性の面ではこちらの方がだんぜん高かったと思います。
「そういえばそうだったかも?」
と思い当たる方も多いのではないでしょうか?
以前はタオルドライだけでもまとまったのに・・・
「今はサイドだけ広がっちゃって、トップがぺったんこ~!」
・・・なーんて
ワックスを大量に使ったりして苦労していませんか?
たくさん削いでもらって、
髪は「薄く」なっているはずなのに
おかしいな~?
なんて思っている方が多いのではないでしょうか?
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実は、再現性があるスタイルって
最低限の髪の厚み がないといけないものなのです。
毛先が重ければ「重い」ほど、
根元から生えてきた「クセ」を引っ張る力が強くなるし、
重い分、予想できないような動きは少ないですから。
毛先に厚みを残した「重め」のスタイルのほうが、
ペラペラ・スカスカのスタイルよりも、
簡単にまとまるものなのです。
最初に「おかっぱ」と言った意味がわかりましたか?
(ちなみに「坊主」は手入れナシでOKという意味で、
再現性の意味では満点なのです。)
ここ数年、
お客様からの注文は「もっと削いで!」「もっと薄くして!」
というのが本当~~に多いです。
さて、「再現性」という意味ではどうなのでしょうね?
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さっき少し触れましたが、安易に削ぎ続けるとどうなるか?
(削ぐとは、レザー(かみそり)や すきバサミで
不揃いに毛先を切って量を減らすこと。
主に表面に対して使うことが多いです)
髪の毛を ただ削いだだけだと、
削がれた「短い髪」は重なって重く残ってしまうものです。
逆に薄くなった毛先は、ショボショボで「不安定」になります。
薄くて不安定な長い髪の上に、
ぼこっと短い毛が重なってしまった状態です。
このやり方でも たしかに「薄く」はなりますが、
かえって横に広がってしまってまとまりませんし、
ニュアンスも表情も全く出ません。
極端ですが
「ヘルメット」をかぶった下から、
チョロチョロ薄い毛が出ているみたいになります。
そんなスタイルに満足できないお客様は、たいていは
「削ぎ足りないからだ!」と、考えてしまうようで、
「もっと削いで!」と注文されます。
そして、考えのない美容師がもっともっと削ぐと、
短い毛の重なり部分はもっと重くなり、
下の長い部分はもっと薄くなります。
・・・・こうなると修正は不可能です。
だって、行き着いたのは、
坊主頭の上に
薄~い長い毛が付いている状態みたいなんですから。
・・・ほら、最近の女子高生にありがちですよね。
それはそれで時代の流れということなのですかね。
彼女たちはそれが良くてやってるみたいですし。

上2丁が剥きバサミ、手前はレザー
◆剥きバサミ(セニング・シザー)
刃の部分がギザギサになってるのが特徴。
このギザギザの細かさがいろいろあり、
髪の毛を減らす量によって使い分けます。
(粗いほど一気に減らせます)
◆レザー(カミソリ)
一応持ってますが、かなり旧式のモノです。
ほとんど使わないのでしまってありました。
メーカーさんから貰った物など多数所有していたのですが、
使い道がないので 以前の店のスタッフにあげてしまいました。
実は私、レザーも使わせたら結構うまいもんなんですが、
まったく出番ナシです。
現在は別の意味でレザー(革)にハマってますけど(笑)
最近のサロンでは、レザーや剥きバサミ(セニング)を
多用する傾向にあります。
カットの時間を大幅に短縮できますし・・・
自信の無い
カットラインをぼかせたりしますから。
(レザーやセニングでないと表せないような質感もあるので、
そればかりの理由だけとは言い切りませんが・・・)
『すきバサミ』をカットラインをぼかす際に使って 毛先を剥いたり、
『レザー(かみそり)』で削いだり。
今風に「毛先にニュアン」スや、
「ぼかし」「動き」を出そうとするのはわかります。
しかし、
未熟な美容師は、
どうしても「ベースのカット」をおろそかにしがちです。
ベースがしっかりと切られていないのに、
「毛量調整」という建て前の上、
安易に 削いだり・剥いたり します。
計算なしで減らされ過ぎたそのヘアスタイルが
とても扱いずらい物になってしまうのは
当然のことです。
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みなさんがよく求める「毛束感」も、
根元部分より、
毛先部分の量感が減っていかないと表現は難しいものです。
でも、毛先だけの量を削いだだけでは実現不可能です。
モチロン減らし過ぎたら「束」にもなりませんので、
そんなこと言ってる場合じゃなくなります。
実はカットテクニックだけでも、この「毛束感」、
十分表現できるんですよ。
ワックスなどを大量に使わないと表現できないモノは
本当の「毛束感」ではありません。
カットの基本がわかっていない人には
表すことが難しいのが、この「毛束感」と言えます。
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※「削ぐ」と、軽くなる・ボリュームが減る
と、思っている方が多いようですが、
物理的に、削ぐと「薄く」はなりますが、
決して軽くなったり、ボリュームダウンはしません。
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髪のクセや硬さや量、
生え方の毛流の向き、
頭部の骨格の形、
どの位置の髪を減らすか?
・・・などによって、
かえって膨らんでまとまらなくなる事が多かったりします。
やみくもに「もっともっと」と削いでもらうのは
大変危険なことです。再現性はどんどん低くなります。
また、削いで作ったスタイルは
「偶然」によるものが大きいです。
もし気に入っていたとしても、
「再び」同じようになるとはかぎりません。
ところで、
髪をたくさん削いだり剥いたりして薄くすると、
髪の乾燥を感じませんでしたか?
レザーを使ったカットも、
剥きバサミを使ったカットも、
髪を滑らせて切るスライドカットも、
(古いですがカリスマ美容師がよくやってたやつです)
髪の表面のキューティクルを
削ぎ落としてしまう「技法」です。
キューティクルが損傷すると髪が傷むのはご存知の事と思います。
(詳しくは→髪の構造)
髪の切り口が斜めになったり、
ギザギザに引きちぎったようなるのもこの技法。
切り口の表面積が大きいのですから、
内部物質の流失と
水分の乾燥が起こり易くなるのは必至です。
厚みが無くペラペラってことは、
空気に触れる面も大きい という事です。
誰も洗濯物を干す時、重ねて干さないでしょう?
薄ければ薄いほど乾燥しやすいってことです。
一時期流行った「エアリー・・・」っていうのも空気感ってことです。
内部に空気がたくさん入ったら「乾燥」しやすくなりますよね?
乾燥=髪内の保水率の低下は「ダメージ」として一番出やすいのです。
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・・・薄くなったスタイルですが、
ヘアカラーやパーマなどの薬剤がつくと
毛量の少ない所に強く効き過ぎてしまうので、
効果が予測しにくくなるばかりか、
ここでも「ダメージ」の原因になるのです。
削げば削ぐほど、
傷んだり、ダメージが進みやすい髪にしてしまうって事です。
「ダメージ」も まとまらない原因。
薄く削ぐ事って、こんなにリスクがあるのです。
「毎日の手入れがいらないように、もっと薄く削いでください!」
というのはかなり矛盾したオーダー
ということにお気づきですよね。
薄くしたい皆様、エスカレートには御注意を・・・・・
薄くしすぎて、すでに手の施しようがない皆様、
それ以上薄くしないよう、
「厚み」を回復するようなカットをしてもらってください。
◆ 削ぎすぎる美容師も悪いですが、
やたらと薄くしたがるお客様にも
責任がないとは言い切れないことも
くれぐれもお忘れなく・・・・・
デザインを求めて行き過ぎると再現性が低くなり、
再現性だけを求めてしまうと、
坊主やおかっぱなどのように
デザインが極端になり過ぎてしまいます。
難しい事ですが、美容師はこの狭間で、
うまく「バランス」を取っていかなければいけないと思っています。
◆ 再現性があった上での、「流行のスタイル追求」なのです。
最近は剥きすぎたスタイルに飽きてきた一部の方々に、
重めのボブベースが見直されてきています。
(タレントさんでも増えてきました。)
私的には、良い流行が来たと喜びたいことです。
(毛流れや髪質に左右されにくいボブベースや
マッシュルームベースを基本に考えるのも良いのですよね。
厚みを残したスタイルはまとまりやすいものです。)
美容師の世界では、
「ボブができると、すべてがカットできる」
と言われるほど、
ボブと言うものはカットの基本中の基本なのです!
・・・しかし、極めるのは難しい。
まさか、そこまでは来ないだろうとは思いますが、
もし、昔の桃井かおりや楠田枝里子みたいな
「ぱっつんボブ」が大流行したら、
修行し直さないといけない美容師が多いんだろうな~。
ごまかしは全く効かないですからね・・・・
そんな日が来ることが、実は楽しみだったりします。
January.07.2006 店主
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